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2018年4月15日日曜日

先達の磯釣その3


「磯釣大物釣」現代日本の釣叢書。出版は水産社。著者はというと、辻本浩太郎、小林忠雄、船橋貞雄、益田甫という4名の共著。あんまり聞いたことがねえなあ、どんな人なんだい。というのが普通だろう。磯釣に関しては古今東西、たいていの書物は目を通している。というのはオーバーだが。といってもそれほど入れ込んでいるわけではないが、なんとなく程度でも長期にわたっているので、まあ一日の長ありかなと自負する小生であっても、船橋貞雄は「水の趣味」編集長で竹竿を自作していたとおおよそ知っている程度。益田甫はかすかに、どこかで名前を見たことがあるかないか程度。他は知らない。現代の普通の磯釣師ではまるで知らないのが普通。


この本も、実は昭和17年7月25日発行なのだ。定価は1円30銭。げげげ、これも戦争が始まっているじゃないか。よくこんなものが。当時、非国民と糾弾されなかったのかなあ。国家総動員体制の下で許されたのが不思議。釣り人の無言の抵抗を感じる。でも、先達たちはどんな磯釣りをしたのだろう。ヤフーオークションに出ていて、興味があったので入手したら上記のようなことだった。前回紹介の絶筆となった国民的有名人で現代でいえば阿久悠みたいな佐藤惣之助なら許されるが、こんなの本がと思った。



厚生省生活局長が序文に、「釣りは精神修養の厚生運動としての意義は深い」なんて申しわけに書いてある。あ、その日付けは16年9月だ。その時、まさかその12月に戦争が始まるとは知らなかったのだろうね。編者の益田は非常時局下、銃後の慰安として釣りが最も好適と書いている。しかし、沖釣りはすでに戦時防衛海面の指定と、漁船への機械油配給制限があって極端に狭められた。この本に船釣りがいろいろ書かれているが、大東亜戦争以来、客釣船は中止している、いつ再開されるか昭和17年2月現在未定である、とあるのが時代を示す。マダイを中心として沖釣が約三分の二ある。これが大物釣りの部分で磯釣というと三分の一。だいたい益田が書いている。

荒磯の釣り物として、メジナ、ブダイ、オキナメジナ、イシダイが挙げられ、クロダイは内湾性だから外洋ではあまり釣れないとある。それから、スズキ、ボラ、ハタ、カンダイ、タカノハダイ、タカサゴダイが挙げられている。小物はカサゴ、ベラ、カワハギ、海タナゴ、アイゴ、メバルが挙げられている。


気になるところランダムに摘出。フカセ釣りはオモリやウキをたよりにせず、糸のフケとノビのみをたよりに釣るとある。これは小生の認識と同じで何の不思議もない。というかフカセ釣りはこれ以外にあり得ない。ではウキを使った現代のメジナのフカセ釣りって何者だ。それはメジナのウキ釣りとしか言いようがないだろ、これをフカセ釣りとは何考えているのだと常々思っている。


この時代は常識だが、ナイロン糸なんてものはない。クロダイは上は人造テグスを使い、下に太物の本テグスをつなぎ、ハリスは細い磨きの本テグスを使う。投げ込み以外はリールを使わない方が一般的。木製か金属の太鼓リールが一般的だから、オモリ投げ込みでもウキの投げでも重いものでないと投げられなかった。

荒磯釣りではやはりブダイが最も一般的で基本の釣りだったようだ。ウキ釣りが一般的だが、脈釣りもある。三間以上、四間半までの延べ竿が良いと書いてある。都会の継ぎ竿は役に立たないとある。渋引き綿糸3本撚りの道糸に3匁から4匁のナツメオモリで本テグス2本撚りの6寸と9寸の2本針。これはよく分かる。松葉ピンに結べば現代のハンバのウキ釣りにそのまま引き継がれている。

ブダイ、メジナ釣りの浮釣りではリール竿をすすめている。三間でクロダイのような調子では役に立たない、とあるが。そういう磯竿って注文だろうと思うが、分からない。

この写真は戦前のペンリール、ロングビーチ60。

ここでおもしろいことが書かれている。そういう持ち合わせがない人は大型のリールとガイドを5、6個と電気工事に用いるテープを持っていくと良い。釣り場で借りた延べ竿に細い糸でくくりつけた上からテープで巻く。しかし、イシダイ釣りでは四間から五間の物干し竿のような頑丈一点張りの延べ竿とある。さらに場所によってはバカを出す。淡水釣りやっている人はバカは分かりますよね。竿の長さより長い道糸を使う。佐藤惣之助でも同じことを書いている。だから延べ竿が一般的だったのだろう。

その他、おもしろそうなところはいろいろあるが、これもいつか後日。あ、そうか、松崎明治の釣百科に触れなければ片手落ちだな。あーあ、芋ずる式に広がっていく。あんまり期待しないでください。気まぐれレベルですから論究ではありません。もっとも釣り百科の戦前版は持っていなくて、昭和36年の増補版です。序文は昭和13年初夏とありますけど。

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